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龍笛プラ管を吹きやすくカスタマイズ(たなかや編)

5月8日の記事では東京の武蔵野楽器プラ管をフェルトバフで磨いてカスタマイズしました。
                                 記事のリンク→ 「武蔵野楽器編」

その後奈良県天理市のたなかやでもプラ管を製造販売されていることを知り実験用に2本購入。
吹口と管内部を研磨。「吹きやすさ」の違いを測定しました。
また代表取締役の細田至紀さんからプラ管誕生の経緯、金型や塗装に関する貴重なお話をうかがうこともできました。

たなかやさんの龍笛(プラ菅)2
たなかやのプラ管



プラ管誕生の経緯

いまから50年ほど前の昭和40年代半ばに天理教で「3000人で雅楽を演奏する」イベントが開催されました。当時の関係者は「3000人分の楽器をどうするか」非常に困惑したそうです。そこで細田氏のお父さんたちが東大阪の町工場や東京の職人さんたちと相談してABS樹脂の龍笛(プラ管)が完成したそうです。

イベント後おなじ金型を使ってたなかや武蔵野楽器が製造・販売を行うようになって現在に至っています。

たなかやのプラ管

たなかやでは「プラ管の低音域が低い」という声が寄せられたため、いくつも模型を作って新しい金型を製作。ですからいま作られているプラ管は武蔵野楽器のプラ管とは①重さ②調律③音色が異なっています。写真のように接合部で抜くこともできます。

重量を比較すると武蔵野楽器製が140g。たなかや製では重量が異なり、(赤)が125g(黒)が128g。小さな町工場で溶けたABS樹脂を吹口の手前から流し込んでいるので「同じ量の材料」で作っても「できた本数」が違うそうです。
手にしただけで重さの違いがわかるほどですが、武蔵野楽器のプラ管の方が若干太いように見えました。

調律は「低音域」を合わせているので芝祐靖氏のCDと合わせて吹いても違和感がありません。

研磨後の音色を比較すると武蔵野楽器製は鋭く鳴り響き迫力があるのに対して、たなかや製は竹笛に近いやわらかい音色になっています。強く吹くと音量も出ますが、少し「無理をしている」ような音色になります。
音量の大きい篳篥と合奏する雅楽では武蔵野楽器のプラ管が、巫女舞に合わせる浪速神楽ではたなかやのプラ管の音色が長所となるように感じました。

また、たなかやでは塗装をしている職人さんが4月から代替わりしています。先代は本管を模して分厚く塗っていたのですが、2代目は薄く塗っています。

その話をうかがって、先代のプラ管(赤)、2代目のプラ管(黒)を1本ずつ購入。塗装の違いによる測定値の変化にも注目してみました。

たなかやプラ管

たなかやのプラ管(ロゴマーク付き)



ネットで購入する時は武蔵野楽器の箱が緑色。たなかやが青色です。赤・黒の色もたなかやの方が少しくすんでいます。「手穴の小さな笛も選べます」というのは武蔵野楽器。







たなかや(赤)研磨前
たなかやのプラ管(赤)



プラ管(赤)の研磨と測定

先代の職人さんが塗装した吹口です。塗装が垂れています。エッジ下端には糸を引いたような盛り上がり。右端にはカサブタのような付着物まであります。
あまりにも研磨が面白かったのでたなかやでプラ管(赤)を3本追加購入しましたが、ここまでのトラブルはありませんでした。
盛り上がった塗料を均一に削るのはアートナイフでは困難です。そこで模型専門店でプラスチックの「バリ」取り用のダイヤモンドヤスリを買ってきました。
写真左から①ダイヤモンドやすり②鉛筆ホルダーに軸付き砥石を入れたもの③ルーペ。

ダイヤモンドやすり
ダイヤモンドやすり・ルーペほか


盛り上がった塗装を丁寧に削り落として磨くこと30分。吹いて音色を確認すると素晴らしい笛になっていました。
ブレスでさまざまな抑揚をつけたのですが、強く吹くとツヤ(倍音)が自在に「出し入れ」できます。また消え入るように静かに吹いても美しい音色だけがいつまでも切れることなく続きます。
雅楽の龍笛で、そのような抑揚が求められるかは知りませんが、ブレスでこれだけ多彩な表現ができるのは「吹き飽きることのない」素晴らしい笛だと言えます。感動して震える手で吹口の拡大写真を撮影。パソコンに取り込んで確認して驚きました。
ダイヤモンドやすりの引っかき傷が2箇所にハッキリ見えるのです。
拡大写真はブログにアップするものですし、なにより「傷がなくなったら、もっと凄い笛になるかも」と欲張って、さまざまな工具を使って削りなおして徹底的に磨きました(写真)。
すると強く吹いた時は面白いのですが、消え入るように吹くと音が切れるようになってしまったのです。「欲」をかいて無駄な手間をかけ「吹き飽きない笛」を「そこそこの笛」にしてしまいました。本当に情けない話です。

たなかや(赤)研磨後
磨きすぎたプラ管(赤)


測定結果

責(2オクターブ目)高い音から
 (ろく)     20秒 → 33秒
  (げ)      35秒 → 38秒
 (ちゅう)    44秒 → 48秒
 (しゃく)    45秒 → 48秒
 (じょう)    46秒 → 49秒
 (ご)      46秒 → 48秒
 (かん)     43秒 → 49秒
 
(じ)       43秒 → 46秒    責(せめ)8音の平均:40.25秒44.875秒
和(1オクターブ目)高い音から
 (ろく)     44秒 → 46秒
  (げ)      43秒 → 48秒
 (ちゅう)    43秒 → 48秒
 (しゃく)    40秒 → 47秒
 (じょう)    43秒 → 46秒
 (ご)      32秒 → 46秒
 (かん)     34秒 → 44秒
 
(じ)       34秒 → 45秒    和(ふくら)8音の平均:39.125秒46.25秒

フェルトバフで磨いた結果、4〜7秒測定値が伸びています。



プラ管(黒)の研磨と測定

2代目の職人さんが塗装した吹口です。薄く綺麗に塗られているようですが、エッジの左に小さな穴。右下に小さな気泡。写真ではわかりにくいですが、右端が「肌荒れ」のようになっていてルーペで確認すると数個の穴があいていました。

たなかや(黒)研磨前
プラ管(黒)の吹口


このプラ管は研磨前から非常に吹きやすく、いくつかの音に音色が「揺れる」ような不安定さを感じたのですが、あまり吹きにくさは感じませんでした。
研磨前の測定でコンディションが良かったのか素晴らしい秒数を記録。研磨も10分かからず音色の「揺れ」も消えたのですが、研磨後の測定値が研磨前と変わりません。ともすると1〜2秒届かないこともあります。
「磨いたら秒数が落ちました」というのも説得力のない話です。何度も何度も測定を繰り返し、磨き終わった吹口を磨いたり管内部を磨いたり…3日かかって1秒から2秒上回る測定値を叩き出すことに成功しました。
その結果が写真の吹口です。明らかに磨きすぎています。
「プラ管をチョチョィと磨いたら吹きやすくなる」というレポートなのですが、我を忘れて結局4本とも磨きすぎてしまいました。本当に情けない話です。

たなかや(黒)研磨後
磨きすぎたプラ管(黒)


測定結果

責(2オクターブ目)高い音から
 (ろく)     33秒 → 35秒
  (げ)      26秒 → 39秒
 (ちゅう)    44秒 → 45秒
 (しゃく)    45秒 → 47秒
 (じょう)    48秒 → 49秒
 (ご)      46秒 → 48秒
 (かん)     45秒 → 47秒
 
(じ)       39秒 → 46秒    責(せめ)8音の平均:40.75秒44.5秒
和(1オクターブ目)高い音から
 (ろく)     44秒 → 49秒
  (げ)      40秒 → 48秒
 (ちゅう)    47秒 → 48秒
 (しゃく)    40秒 → 46秒
 (じょう)    46秒 → 47秒
 (ご)      47秒 → 48秒
 (かん)     45秒 → 47秒
 
(じ)       40秒 → 45秒    和(ふくら)8音の平均:43.625秒47.25秒

フェルトバフで磨いた結果、4秒ほど測定値が伸びています。ただこの「伸び」はいくつかの音程が10秒ほど改善された結果を反映しているだけです。大多数の音は測定値が1〜2秒伸びただけですし、その結果も意地になって測定と研磨を繰り返したものなので、あまり意味はありません。

測定結果の検証


測定結果
たなかやのプラ管(赤)(黒)の測定結果


折れ線グラフはプラ管(赤)が赤線。(黒)が黒線。研磨前は点線で研磨後が実線になっています。

図を見ると40秒に届かない「吹きにくい音」は限定されています。
秒数の短いのは(赤)で責(せめ)の六(ろく)、和(ふくら)の五(ご)〒(かん)ン(じ)だけです。
これは明らかに塗装のトラブルが原因だと考えられます。
それ以外の音程は若干音色が「揺れる」不安定さを感じましたが、「越天楽」を演奏してもトラブルは感じません。塗装に多少の偏りがあっても雅楽の稽古に使うことはできそうです。
また低音域のトラブルも研磨することで改善することができました。

(黒)では責(せめ)と和(ふくら)の丁(げ)、和(ふくら)の丁(げ)夕(しゃく)でしょうか。
(ン(じ)はもともとかなり吹きにくい音程です)
責(せめ)和(ふくら)どちらも丁(げ)が出にくいのは、吹口左下にある小さな穴が原因だと考えられます。これほど小さな穴がトラブルの原因になることは予想外でした。
和(ふくら)の夕(しゃく)の測定値が悪いのは吹口右下の気泡の影響でしょうか。
(黒)も普通に「越天楽」を演奏できました。塗装前に素晴らしい測定値を出したので、それを上回るために苦労しましたが、10分足らずの研磨で「吹きやすい笛」にできるのは龍笛を始める人には朗報と言えるでしょう。

たなかやのプラ管は気泡がないので吹いてトラブルは感じませんでした。そのままでも充分、雅楽の稽古に使えるクォリティだと思われます。ただ音色は「雑味」が強く響きを損ねている印象があります。たなかやのプラ管を吹いて「心地よさ」を感じられるかというと難しいでしょう。
塗装をされる職人さんが代替わりして薄く塗られたプラ管は10分ほど磨けば「雑味」がなくなり響きが良くなります。従来の分厚く塗ったプラ管も、筆者が磨くと「吹き飽きない笛」になる可能性があります(実際に3本追加購入して磨きました+5本追加注文中)。
簡単に吹きやすくできるのが2代目のプラ管。磨いて面白いのが先代のプラ管と評価しました。

今回の「プラ管研究」では10本のプラ管を購入して9本研磨しました。
「欠点」だらけの笛を研磨すると非常に勉強になります。笛を研磨するのは「笛作り」で一番面白く楽しい作業です。自然素材の「竹」から笛を作ると、一生懸命頑張っても「こんなもんか」ということが多いのです。
特定の高音域がキツイ音色だったり、響きが弱かったりします。ところが吹口を磨くテクニックを知っていると、たった「10秒」磨くだけで音色や響きを改善できます。その「10秒」を数回繰り返すと、本当に素晴らしい笛になっていくのです。まさに笛作りの「奥義」。
「プラ管磨き」はたった5400円で「笛作りの奥義」を体験できます。

プラ管で雅楽を稽古中の皆さん、龍笛本管を製作しておられる皆さんに「プラ管磨き」を心よりオススメして、筆を置きたいと思います。


6月3日(月)に完成したレポートを持ってたなかやを訪問。代表取締役の細田至紀さんに報告できました。実際にプラ管を磨く作業も見ていただいて「音が滑らかになった」と言っていただけました。守山の「泡が出ないように少しだけ厚く塗った方がいい」というアドバイスも職人さんに伝えていただけるそうです。
塗装ムラや気泡のある拡大写真をネットで公開しているので職人さんには気の毒なことをしていると思うのですが、たとえプラスチックとはいえ「笛」は演奏者に喜ばれてこそ!!

不思議な「縁」からプラ管を磨くことになってしまいましたが、今日(7日)も知人が訪ねてきて「磨いたプラ管」を大喜びで買っていただけました(工賃なしの原価で)。これからもプラ管を磨くことになりそうです。
たなかやさん。今後ともよろしくお願いします。

(その知人が買った白竹龍笛も吹口塗装がムラになっていて磨くことになりました)




テーマ :
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

守山 鷲声

Author:守山 鷲声
1958年秋田市生まれ
「石笛仙人」で動画配信中
「さすらいの越天楽吹き」
最近毎朝二日酔い…

笛馬鹿歴25年!!の
「ドレミ音階」の横笛作家
1300本作りました(笑)
いい笛をたくさん作って
悲しみ多きこの世界に
美しい音色を広げたいです
今年は少しスローペース?
めざせ月に2日の固定休!!

愛読書「口語訳古事記」
「梁塵秘抄」もなんとか読破
浮世絵(復刻)収集が楽しみ

笛の起源・クマバチ飼育・
縄文遺跡・山彦など研究

苦手なもの
電話・目薬・ラベンダー

還暦すぎて体はガタガタ
毎月の薬代>酒代なのが涙

お問い合わせは下のリンク
「笛の店 谺堂」から
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